コロナによるオンライン期間、あれは5月頃だったか。
サイクリングにハマった。いや、自転車で探検するって言った方がいいかも。
つくばは一歩わき道にそれると古い町並みが顔を出すからおもしろい。
道はくねくね、袋小路も多く、何度Uターンしたことか。
知らぬ間に人の家に侵入してしまったことも度々…。
30代男性と見られる半袖短パンの大男が、
平日の昼下がりの路地を笑顔で駆け抜けるのだ。
すれ違う面々はどこか不安そうだった。
それでも、僕は毎日のように裏道に出かけた。
自転車は、車よりゆっくりで、でも徒歩よりはやい。
当たり前なんだけど、そのスピード感でしか気づけないものがあるから面白い。
新しい道を発見したり、道の意外なつながりを知ったり。
頭のなかの地図が更新されるとテンション上がるし。
高速道路を真下から見上げたり、あぜ道から小川を見下ろしたり。
違った視点から眺めてみるのも興味深いし。
家の間取りやつくりを見たり、家屋の築年数や木々の樹齢を推定したり。
昔のすがたや生活を想像するのも楽しいし。
こうやって自転車は色々気づかせてくれるけど、
なかでもひと際心を揺さぶられる瞬間がある。
家々を通り過ぎる瞬間にしばしば鼻をかすめる、
その家独特のにおい、生活臭というやつ。
料理のにおいじゃない。
献立を想像するのも楽しいけど、そうじゃなくて、
その家庭が歩んできた歴史そのものであり、生活総体のにおいというか。
うん簡単に言おう、「人ン家(ひとんち)のにおい」だ。
石鹸や洗剤、芳香剤、整髪料…、アロマ、香水…、食べ物、飲み物…、お線香…ペット…、 そして人。
そこに住まう人々の好み、生活スタイルや水準、構成…。
それら家族のすべてを凝縮させたような、そんなにおいを嗅ぐと、
なつかしいような、切ないような、それに尊さや無常さが加わった
なんともいえない気持ちになって、たまに泣きそうになる。
自ら選んだこと、
自然と選ばれたもの、
選ばざるを得なかったもの、
選べなかったもの。
一人ひとりの選択とそれに伴う想いが、
一つ屋根の下で交錯して…それを家族を築き上げていると思うからか…。
岡本はとうとう押し入れ生活を卒業し、久々のアパート暮らしになります。
そこには過去に色んな人(仲間)が住んでたので複雑なにおいがしますが、
何の感慨もわきません。全力で消臭につとめます。