みなさん、ご機嫌よう。
もののけと共に生きる男、安部です。
さてさて、前回で一応完結した幼少期ですが、
1つ話し忘れていた逸話を思い出したので、
今回は番外編という形で書こうかと思います。
またしても長編になってしまったので、
お時間あるときにでも読んでいただければ幸いです。
時は遡ること2歳…これは僕の人生最初の記憶の物語………
僕はおばあちゃんの家にいた。
いつもより騒がしかった家の中も今ではすっかり静かで、
外では寒空の下、カモメがうるさいくらいに鳴いていた。
僕だけが置いてけぼりにされたような、そんな気持ちがした。
「ばいばーい!」
大好きな従兄弟家族が帰るのを2階の窓から見送っていた。
心の隙間を埋めるように、懸命にその小さな右手を振った。
ふと見上げた空には、僕の心を映すように薄暗い雲が広がっていた。
徐々に冷えていくその右手は、自分のものとは思えないほどきれいで、でもどこか儚くて。
まるでガラスの人形のようだと思った。
パリンッ
静寂を嫌うように透き通るような音が響いた…
~母視点~
心が割れる音を聞いた。
胸を締め付ける何かを振り払うように足を動かした。
焦りなど無意味だと知っている。
それでも止まったら、何かが壊れてしまう。そんな気がした。
「よかった…」
そこにはうつむく息子の姿があった。
あまりにも静かで、何もかもが杞憂だったのだと、そう思った。
「たいすけ………」
「………たいすけっ!!!」
鮮やかな赤、朱、紅…
散らばるガラスの破片が光を反射して、
色のない世界に あか が広がっていた…
思うよりも先に体が動いていた。
息子の右手首を強く握りしめ、天高く上げ、抱きかかえた。
走った。ただひたすら走った。
誰もいない街の中を、走った。
無限にまで引き延ばされた時の中を、走った。
病院の場所は覚えている。
慣れた道のはずなのに。こんなにも遠く感じたことはない。
「助けてください!!!」
それは息子をなのか、私をなのか。
ただ事ではない雰囲気を察した看護師が慌てた様子で出てきた。
そして、息子の右手小指を見て絶句した。
「どうされ…っ!!!」
「息子がガラスの人形に!なんでこんなこと!あー血が止まらない!なんで!なんで!!!」
「処置室に案内します!」
案内された一室は閑散としていた。
鈍く光る器具たちが息子を傷つけるのではないかと。
息子を強く抱きしめた。
「とりあえず止血をしますので…」
「先生はいないんですか!」
「年末で先生がいないんです…すぐに来てくれる先生を呼んでいますので…」
こんなときにいない医者を呪った。
あんなところにガラス人形を置いていた父を呪った。
そして、自分を呪った。
あそこにガラス人形があることは知っていたなんで一人にした何もかも知っていた考えれば危ないことくらいわかったはずなのにお前のせいだそれなのに私が一人にしたせいで息子の将来を奪ってしまったかもしれない息子を傷つけたのはお前だ小指は骨まで見えていたボール遊びもペンを持つことももう右手は使えないかもしれない
「…ん……が…ん…」
ぐるぐると渦巻く思考の中に、一滴の光が落ちた。
割れたままの心の欠片が、一つずつ形を成していく。
「…が…まん…がまん…」
色のない世界がかすかに色づいていく。
目の前の小さな小さな存在から放たれる強烈な光に照らされて。
「おかあさん…なかないで…ぼく…がまんできるよ…」
今になって気づいた。この子は一切泣かずに耐えていたのだ。
母を泣かせまいと今も必死に耐えているのだ。
この子は強い。
これから何があってもこの子なら大丈夫。
私は救われた。
そんな私にいまできることは…
「一緒に頑張ろう。お母さんも一緒にがまんするよ。」
励ますことしかできない。痛みを分かち合うこともできない。
どうかこんな母を許してほしい。
でも、絶対に一人で苦しませたりしない。
もう覚悟は決まった。
「先生が到着しました!」
~僕視点~
”いたいいたいいたいいたいいたいいたい”
頭を埋め尽くすほどの痛みがどこまでも追いかけてくる。
本当はいますぐ泣き叫びたい。
そうしたら痛みが立ち止まってくれるかもしれない。
でも、がまんだ。
お母さんを悲しませちゃだめだ。
お母さんと一緒にがんばるんだ。
先生が何かを叫んでいる。
でも、僕の耳には届かない。
僕の心に届くのはもうお母さんの言葉だけ。
「がまんがまん」
「がまんがまん」
お母さんの言葉を追って、僕は必死に耐えた。
そしてすべてが終わったとき、僕はようやく意識を手放した。
~母視点~
本当にこの子は…
すべての力を使い果たしてベッドに横たわる我が子を撫でていた。
麻酔せずに縫合するなんて大人でも耐えられるものではない。
先生からの指示でこの子を押さえつけていたけど、その必要はなかった。
「がまんがまん」と言って耐えてしまったのだから。
先生にはもう小指は動かないだろうと言われた。
覚悟はしていたが、それでもショックだった。
でも、と先生は続けて神経移植をすればあるいはと言ってくれた。
移植後のリハビリが大変だから小さい子にはすすめないんだけど、この子ならきっと大丈夫とも。
返事は考えるまでもない。
私はこの子の力を信じると決めた。
何が起きてもこの子なら自分の力で乗り越えていけるという確信がある。
なら私の役割は全力で応援すること。それだけだ。
「お願いします。神経移植できる先生を紹介してください。」
数年後…
~僕視点~
雲一つない青空に向けて右手を伸ばす。
気持ちよさそうに飛んでいるカモメの影をつかんだ。
ちょっとだけいびつな、でも確かに握りこぶしがそこにはあった。
「おかあさん!ぼく、そらとびたいな!」
「じゃあ今度飛行機に乗ってみようか」
「やったー!」
こうして僕は一歩、また一歩と未来へ歩みを進めていく。
そんな僕を応援するようにカモメが鳴いていた。
~fin~
あーまたやってもうた。笑
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、本当にありがとうございます!
これもちゃんと実話ですからね!いまだに右手小指の第一関節は曲がりません!
今回はちょっと自分の中でテーマがあって、それは
「いや安部だって書こうと思えばまじめな文章も書けるんだよ?」
ってことだったんですけど、どうでしたか?笑
情景描写とか言葉の選び方とか慣れないことしたせいで、
いつもの倍以上の時間がかかってしまいましたけどね。
基本路線はおふざけエピソード、
そしてたま~に真面目なブログ(エピソード以外も)を上げていこうかと思いますので、
今後ともお付き合いくださいませ。